ただしこの研究は、中毒情報センターに寄せられた電話相談の事例を分析しているので、健康食品による副作用のなかでも重症の症例に偏っている可能性があります。
じっさいには、おそらく健康食品に副作用があっても、中毒情報センターに相談するまでにはいたらないような軽いものが大半でしょう。
ですから、今回の結果で三割が深刻な症状だったというのは、全体としてみればじっさい以上に過大評価になっているので、その分割り引いて考える必要はあります。
有効性より安全性の重視を そうはいっても、健康食品によってこれだけの副作用が頻発しているというのは、やはり驚くべきことです。
「食品」と「医薬品」の区別には科学的な根拠かおるわけではなく、多くの場合は行政的な、便宜的な分類でしかありません。
ですから健康食品は、「医薬品」と違って「食品」だから、「ナチュラル」で「安全」とは限らないのです。
健康食品やサプリメントの多くは、特定の成分を大量に含んでいますから、なんらかの望ましくない作用が起こる可能性もあるわけです。
じっさいに利用するにあたっては、十分な注意が必要だということを思い起こす必要があります。
少しネガティブな話が続きました。
けれども、健康食品やサプリメントについて、世の中に出回っている情報は、ポジティブな話がほとんどです。
商品を売る側の提供する情報が圧倒的に多いので、どうしても宣伝まがいの話が中心になります。
健康食品の効果について、じっさいの臨床試験に基づく科学的データはどのくらいあって、害はないのかという情報は、あまり一般には伝わりません。
健康食品やサプリメントは、足りない栄養素を補う点では、有用なものもあるかもしれません。
「サプリメント」という言葉のほんらいの意味は、足りないものを「補う」「補給する」ということです。
けれども、現在の日本人の普通の食生活なら、たとえばがんの予防に必要なビタミンは、食事を通してすでに十分摂れている可能性があります。
その場合、あえて補う必要のない栄養素や化学物質を大量に摂取して、それが無害ならまだしも、副作用などの害が起こるのでは損なだけです。
ですから、健康食品やサプリメントのように、ほんらい摂る必要のないものをあえて使うというときには、「有効性」よりもむしろ「安全性」の問題を重く考えて、慎重に選択すべきではないかと思います。
アルコールの健康に対する影響は、病気によって違います。
病気によって、予防効果があったり、リスクを高めたりと、非常に複雑です。
がんについては、多くの部位のがんのリスクを上げます。
アルコールが予防になるがんはありません。
それに対して心筋梗塞は、お酒を飲んでいる人のほうが発生率が低くなります。
脳卒中はさらに複雑です。
脳卒中には、脳の血管が詰まる脳梗塞と、脳の血管が破れる脳出血があります。
このうち脳出血のほうは、お酒の量が増えるほどリスクも直線的に上がります。
それに対して脳梗塞は、少量の飲酒ではリスクが下かって、多量飲酒をするとまたリスクが上がるという関係があると考えられています。
多くの食べ物や栄養素は、がんの予防になるものは心臓病の予防にもなる、がんに悪いものは他の病気にも悪いというふうに、影響の方向が揃っていることが多いのです。
けれどもアルコールに関しては、病気によってリスクを下げたり上げたりと、その作用がずいぶん違います。
まず順番に、アルコールとがんの話からしていきます。
第二章で紹介した世界がん研究基金の報告書(図表2‐1、三八よ二九ぺ1‐ジ)では、アルコールによって多くのがんのリスクが上がると判定しています。
具体的には、次のような判定です。
・「確実」にリスクを上げる……口腔がん、食道がん、肝臓がん・「おそらく確実」にリスクを上げる……喉頭がん、大腸がん、乳がん・リスクを上げる「可能性かおる」……肺がん これに対して、アルコールを飲むと予防になるがんはありません。
ですから、がん予防のためにはけっしてアルコールは勧められません。
飲まないほうがいいということになります。
こうした事情を反映して、世界がん研究基金の「がん予防一四ヵ条」(図表2‐2、四七ページ)の第六条では、飲酒について次のように提言しています。
「飲酒は勧められない。
もし飲むのであれば、男性は一日二杯、女性は一日一杯未満に留める」 一日一杯の飲酒というと、日本酒なら半合、ワインならグラス一杯(一〇〇ミリリットル)、ビールなら一杯(二五〇ミリリットル)にだいたい相当します。
ただし、この提言は、それぐらい飲んだほうが、飲まない場合よりも、がんの予防になるという意味ではありません。
冒頭の「飲酒は勧められない」、こちらが提言の中心です。
飲酒は勧められないけれど、もし飲むんだったら、少量にしましょう、という意味です。
ちなみに、この「アルコールによるがんリスクの上昇」は、食べ物とがんをめぐるさまざまな研究のなかでも、もっともはっきりとしていて、科学的根拠が確立した知見の一つです。
じっさい、世界保健機関(WHO)や米国の環境保護庁がそれぞれ刊行している、発がん物質に関する二つの報告書でも、アルコール飲料によってがんのリスクが上昇すると判定しています。
アルコール飲料は、アスベスト(石綿)などの発がん物質と同じ扱いをされているのです。
ところで、アルコールと個々のがんとの関係について、肝硬変から肝臓がんになるリスクが高まることや、あるいは食道がんのリスクが上がることは、以前から知られていました。
これは、一般の方もわりとよくご存じだろうと思います。
けれども世界がん研究基金の報告書は、肝臓がんや食道がんだけではなく、たとえば大腸がんや乳がんについても、飲酒によってリスクが上がると判定しています。
これは、一般にはあまり知られていないのではないでしょうか。
大腸がんや乳がんは、もともと日本人には少なかっだのに、食生活や生活習慣の「欧米化」によって増えてきたというようないわれ方をします。
けれどもじつは、「欧米化」とはあまり関わりのないアルコールも、この二つのがんのリスク上昇に関係しているわけです。
では、乳がんは、どのくらいの飲酒量でリスクが上がるのでしょうか。
これについてくわしく調べた研究を紹介します。
『米国疫学雑誌』の二〇〇一年(平成一三年) 一〇月一五日号に報告された論文で、一九六六年(昭和四一年)から一九九九年(平成一一年)までに出版された、アルコールと乳がんに関する論文四二件のデータをもとに行われた研究です。
一つの集団でアルコールと乳がんとの関係を調べたのではなく、それまでに発表された四二件の論文のデータをもとに、アルコールの飲酒量と乳がんの発生率との量的な関係を推計したものです。
四二件の研究に含まれる乳がん患者の人数を合計すると、四万一四七七例にもなるという大規模なデータです。
なお、アルコール換算は、飲酒量にアルコールの比重〇・八とアルコール度数をかけると概数が算出できます。
ビール大瓶一本六三三ミリリットル(アルコール分五パーセント)の場合、次のような計算になり、約二五・三グラムのアルコールが含まれていると計算できます。
丞W(吼)×つyX只呂=斟’治(巴 アルコール分は、日本酒一五~コハパーセント、ウイスキー四〇パーセント、焼酎二五パーセント、ワインコー~コニパーセントです。
こういうデータをもとに推計したところ、一日平均の飲酒量がアルコール換算で六グラム、コーグラム、二四グラムの人の乳がん発生率は、お酒を飲まない大と比べて、それぞれ四・九パーセント、一〇パーセント、二Iパーセント高くなりました。
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